スポーツジム・フィットネス業界では長年、コナミスポーツ(旧エグザス)とセントラルが業界最大手の座を争ってきました。 しかし、新興勢力のライザップが小型ジム「chocoZAP」で急成長し、売上高1位になりました。 以下の一覧は、スナップアップ投資顧問の決算分析データ、東京フィットネス研究センター、経済産業者の資料を基にまとめました。

<ジムの売上高ランキング>
【2024年最新版】
順位 ジム
(運営会社)
売上高・説明・評判
1位 RIZAP
(ライザップ)

ライザップ
売上高600億円
(利益:会社全体で68億円の最終赤字)
※2024年3月期予想(ヘルスケア・美容部門)

(上場企業)

シャワーのない超小型ジム「チョコザップ」

2022年7月から超小型ジム「チョコザップ(chocoZAP)」を展開。 店員がいない無人の簡易型ジムで、シャワーもない。ロッカーもない。店舗によってはトイレすらない。

料金(月会費)は月額3278円。エニタイムフィットネスの半額以下だ。 「コンビニジム」というコンセプト。 上履きに履き替えることなく、土足のまま利用する。

2024年3月時点で店舗数は1383。会員数112万人。初出店から1年半余で断トツの日本一になった。

無人であるため、掃除が行き届かないという問題がある。器具(マシーン)同士の間が近すぎて、やりづらいという口コミも多い。いずれにせよ「とにかく価格重視」という人に向いている。

大赤字と巨額借金

出店経費が膨らみ、巨額の赤字状態になっている。 資金繰りをこなすため、新たに67億円の借金をした。 借り入れ元の内訳は、創業者・瀬戸健社長から55億円(資本性劣後ローン)、りそな銀行から12億円。 失敗すれば経営がヤバい。

【パーソナル・トレーニングは「強引な食事制限」】
チョコザップを始めるまでは、小型ジム「RIZAP」での個別指導(パーソナル・トレーニング)が主力事業だった。 2010年から開始した。トレーナーがマンツーマン(1対1)で会員の体重を減らす商売だ。 運動よりも食事制限によって痩せる方式を推進した。 ひたすら「食べない」ことで、短期的に強引に体重を落とす、という非健康的なやり方だった。

健康に最も良いとされる有酸素運動もしない。 当然ながら、いったん痩せても体重が元に戻る「リバウンド」が多い。

以上の理由から、厳密には「フィットネス」の会社と言えるかどうか疑わしかった。 むしろ「ダイエット業界」に近かった。

会費が高額で、退会者も多かった。 従業員の離職率も高いことでも有名だった。

芸能人らを使った派手な宣伝を行った。リテラシーの低い若年層をターゲットにした。 効果が出やすいのは事実だろうが、 何しろ長続きしない。

コロナ禍に加えて、人為的なブームが去ったことで、会員が激減。 赤字に転落した。 この凋落から復活すべく、新たに打ち出したのが「チョコザップ」だった。

(以上、東京フィットネス研究センターの評判レポートや口コミを参照)
2位 コナミスポーツ
(コナミHD)

コナミHD
売上高480億円
(黒字70億円←前年の赤字21億円)

※2024年3月期の予想

(上場企業コナミの子会社)

【レッスンが充実】
一般的なスポーツジムの中で最大手。大都市圏に多数店舗を持っている。

もともとは大手小売店「マイカル(旧ニチイ)」が運営する「エグザス」だった。 マイカルが経営危機に陥ったのを受けて、ゲーム会社大手「コナミ」が買収した。

「レスミルズ」という世界最大の総合フィットネス・プログラムのレッスンを受けられるのが魅力。 レスミルズは、真剣に運動をしたい層から熱烈な支持を得ている。 似たようなスタジオ・プログラムはいろいろあるが、レスミルズは元祖であり、 内容、インストラクター、音楽いずれもレベルの高さが頭一つ抜けている。 健康づくり、ダイエット、体力向上などの効果も高い。

近年、スタジオがない小型フィットネスジムが急増した。 また、ヨガなど一部種目に特化した専用スタジオも増えた。 水泳を含めて総合的なレッスンを提供しているコナミは、 これらの小型・専用系の施設とは対極をなすものである。

レッスンに定期的に参加する人のほうが、 若さや健康の維持の面で優位だということは実証済み。 長続きしやすく、習慣性が高く、ストレス発散度も大きいからだ。

不採算の店舗を積極的に閉鎖している。その一方で、2021年からピラティス専門スタジオ「ピラティスミラー」を展開。都心で積極的な出店をしている。

2017年に労働組合がストを行った。

(以上、東京フィットネス研究センターの評判レポートや口コミを参照)
3位 ルネサンス

ルネサンス
売上高440億円
(利益:18億円の黒字←前年11億円の赤字)
※2024年3月期の予想。他の事業は手掛けていないため、セグメントはない。

(上場企業)

【明るい雰囲気のジムだが、経営陣は低レベル】
明るい雰囲気が特徴。現場の社員たちも、コナミ等に比べて生き生きと仕事をしている。接客もおおむね良い。

とはいえ、経営陣のセンスは良いとはいえない。いろいろなことにチャレンジするが、失敗に終わることが多い。そのぶん、現場の人たちは苦労しているようだ。

コロナ禍でスタジオレッスンを「原則1本30分」という短時間制にした。 コロナが終結した後も、30分のままのレッスンが多い。 昼間ずっとジムにいる無職の人たちに対しては30分レッスンでもいいだろう。 しかし、平日夜しかジムにいけない人にとって、30分レッスンしかないというのは、悲劇だ。NASやロコスポーツ等をみならって欲しい。

2023年、東急不動産の子会社「オアシス」を買収した。

(以上、東京フィットネス研究センターの評判レポートや口コミを参照)

(参考:ルネサンスとは
4位 セントラル
(セントラルスポーツ)

セントラルスポーツ
売上高460億円
(経常利益20億円←前年の利益13億円)
※2024年3月期の予想。他の事業は手掛けていないため、セグメントはない。

(上場企業)

【高齢者重視。若者向けプログラムが欠落】
水泳のオリンピック選手がつくったジムである。現在はその息子が社長を継いでいる。上場企業なのに、世襲制を続けている。

他のビジネスにはあまり積極的に進出せず、スポーツジム専業の会社になっている。その堅実な経営スタイルは評価できる。

高齢者の会員を重視しており、若者向けのスタジオ・レッスンが少ない。かつての熱気はすっかりなくなった。

「シェイプパンプ」「ファイトアタック」などの独自のプログラムを導入しているが、いずれも退屈である。とくに現役世代にとっては全く物足りない。 それらのレッスンを指導する社員インストラクターの質も低い。

とはいえ、主たる会員層である「高齢者」に配慮しようとする姿勢は、短期的には有効である。

近年、利益が出ている店舗も含めて一律にコスト削減に取り組んだ結果、顧客満足度が低下した。 店舗ごとにもう少しメリハリをつけるべきだろう。

2010年代半ばに明治グループから「ザバス」を買収した。

(以上、東京フィットネス研究センターの評判レポートや口コミを参照)

(参考:後藤忠治とは
5位 カーブス
(カーブスHD)

カーブスHD
売上高300億円
(利益24億円)

出典→
※2023年8月期決算の会社予想に基づく。

(上場企業)

【運動ゼロよりはマシ】
おばあちゃん世代のための小型ジム。中途半端な環境で、気休め程度に体を動かすのに向いている。運動を全くしないよりは全然マシ、ということだろう。問題は、長続きするかどうか。
6位 ティップネス
(日本テレビHD)

ティップネス
売上高260億円
(利益:31億円の赤字←前年30億円赤字←前々年72億円赤字)

※2023年3月期の決算公告に基づく。

(上場企業の子会社)

【民放テレビ局にジム経営は無理】
サントリーが1986年に設立した。2014年に日本テレビが買収した。 日本テレビは、地上波の電波利権によって経営が成り立っている会社である。優れた経営ノウハウがあるわけではない。 従って、スポーツジムを上手に経営できるはずはない。

実際、日本テレビ傘下になってから、経営状態は悪い。早く撤退し、他のまっとうな企業に運営を任せるべきだ。

ティップネスは、全国どこのジムでもやっていたズンバを、長年にわたって導入してこなかった。 そのかわり、「バイラバイラ」という不人気なダンスプログラムを採用していた。
7位 NAS
(大和ハウス)

NAS
売上高184億円
(利益:3600万円の赤字←前年116億円の赤字)

※2023年3月期の決算公告に基づく。

(上場企業の子会社)

【最強・最良のフィットネスクラブ】
現在、フィットネスクラブの王者として君臨している。

若年層や働き盛りの世代を会員として積極的に取り込んでいる。 若者をひきつける魅力的な点が3つある。 (1)スタジオプログラム(2)充実した施設(3)安い料金――である。

スタジオプログラムについては、 中高年向けのラディカル・フィットネスを縮小し、 世界に愛される王道「レスミルズ」への転換を進めている。

施設に関しては、新規出店の際に親会社の大和ハウスが自社ビルとして創りあげる。 住宅メーカーならではのこだわりが強く出ており、充実度が高い。

そもそも、一般消費者を対象にする商売とは何たるかをよく心得ている。
8位 ゴールドジム
(THINKフィットネス)

ゴールドジム
売上高155億円

出典→
※2021年2月期決算

(非上場)

【頑張っている!】
駅前や駅近くの立地が多い。都心でも店舗を展開している。 コロナ禍でもサービスの品質を維持すべく、懸命に頑張った。

スタジオプログラムも充実している店舗が多い。 床面積がさほど広くない店もあるが、いろいろ工夫している。 マッチョな筋トレのジムというイメージが強いが、老若男女が楽しめる優れたフィットネスクラブである。

Wakaba AIによると、Zumba(ズンバ)をやるなら、ゴールドジムが一番おすすめだという。会員の評判も良い。
9位 メガロス
(野村不動産HD)

メガロス
売上高150億円

会員数:11万608人(2022年3月末時点/前年は11万1425人、前々年は14万3663人)

顧客単価:1万124円(前年は8100円人、前々年は8923円)
※2023年3月期決算

(上場企業の子会社)

【映像レッスン中心の低品質フィットネスクラブ】
サービス精神が乏しい。その象徴として、スタジオプログラムが映像レッスン中心になってしまった。

親会社の野村不動産から社長が送り込まれたこともあり、優秀な人材が流出した。彼らが中心になってエニタイムフィットネスを設立し、日本のフィットネス業界に新風を巻き起こすことになった。

野村不動産の子会社として、1989年に設立された。 一号店は東京都町田市。2007年にジャスダックに上場した。 2015年に野村不動産がTOBを実施して完全子会社となり、上場が廃止された。 2016年に会社名を「野村不動産ライフ&スポーツ」に変えた。
10位 オアシス
(東急不動産)

オアシス
売上高150億円(推計)

出典(決算補足資料)→
※2022年3月期決算

(上場企業の子会社)

大型店舗が多いのが特徴。施設も比較的新しく、競争力の強い店が多い。

コロナ禍で経営が悪化し、広島エリアから撤退した。

東急不動産の100%子会社だったが、2023年にルネサンスに買収された。
11位 エニタイムフィットネス
(運営会社:Fast Fitness Japan)

エニタイムフィットネス
売上高147億円
(利益19億円)

出典→
※2023年3月期決算に基づく(単一事業であるため、セグメント情報はない)。

(上場企業)
簡易型の小規模ジム。マシン専用。24時間型。2010年代に急成長した。

料金が安いのが特徴。従来型スポーツクラブでは40歳代以下の男性は土曜・日曜・夜間利用で月1万円以上の会費を払っていたが、エニタイムは月7,000円程度で済む。収入に限りがある若い男性を主な顧客層にしている。

それぞれの地域のオーナーが経営者としてジムを運営する「フランチャイズ」方式を採用している。

アメリカのチェーン店を日本に持ち込んだ。米国エニタイムフィットネスは2002年創業。社長には、メガロスの執行役員だった土屋敦之氏が就任した。

創業資金は、大熊章氏(大熊製作所オーナー)が中心となって拠出した。大熊氏は2020年12月の上場後も、5割超の株式を握る圧倒的な筆頭株主。

日本での経営母体である「ファスト・フィットネス」は、メガロスの元社長らが2010年に設立した。その年に、米国エニタイムと契約した。

米国エニタイムから、ブランドの日本における独占的使用権と運営ノウハウを取得している。 その対価としてロイヤリティなどを支払っている。

2020年12月に上場した。 上場時点で会員数55万人。会員の9割が40歳代以下だった。 男女比は男性75%、女性25%。
12位 ホリデイ
(東祥)

ホリデイ
売上高118億円
(利益:3億円の赤字←前年の利益9億円←前々年の利益5億円)

出典→
※2023年3月期決算のセグメント別情報に基づく。

(上場企業)

全国100店舗。うち東海地方が24店舗。うち愛知県が13店舗。そのほか関東20店舗、九州14店舗、近畿11店舗、中国10店舗など。

郊外の立地が中心。

運営会社は東祥(とうしょう)。本社は愛知県。1979年に建設会社として発足。1996年に副業として始めたにスポーツジムで急成長した。子供向けスイミングスクールが主流だった地方都市に出店した。10万~20万人の商圏だ。

創業者は沓名(くつな)俊裕氏。1973年に父親が経営する造園会社に入社し、独立した。

沓名氏は、ゼネコンの下請けでしかない建設業者から脱皮すべく、1980年代から、 ゴルフ用品販売や居酒屋など14の新規事業に挑戦。何度も失敗してきた。 過去の失敗の積み重ねが、お客様にどうやって通い続けてもらうかを追求する発想につながったという。

露天風呂に力を入れた。露天がつくれない店も内風呂の壁をガラス窓にして開放感を出した。

2004年ジャスダック上場。現在も上場しているが、社長は世襲制。現社長は沓名(くつな)裕一郎氏。1975年の元旦に生まれた。
13位 アクトス
(バローHD)

アクトス
売上高98億円
(赤字5億円←前年の赤字19億円)

出典→
※2022年3月期決算のセグメント別情報に基づく。

(上場企業)

本社は岐阜県。食品スーパー「バロー」のグループ企業。
14位 24/7Workout
(トゥエンティーフォーセブン)

トゥエンティーフォーセブン
売上高42億円
(利益:17億円の赤字←前年の赤字1億3600万円)

出典→
※2022年11月期決算に基づく。

(上場企業)
15位 LAVA(ラバ)
(運営会社:LAVA International=ベンチャーバンクグループ)

LAVA
売上高不明

(非上場)

アメリカでホットヨガが流行したのを受けて、日本で同じようなビジネスを始めた会社である。 ホットヨガは高温多湿の室内で大量の発汗を促しながら行う。

LAVAは2004年に1号店を開設。オープンから約2年で50店舗を展開し、ホットヨガブームを牽引した。

一方、米国で先にホットヨガを広めた「ビクラムヨガ」も日本に進出した。 彼らは日本における「ホットヨガ」の商標権を主張し、いったん商標登録された。しかし、2008年に無効となった。

LAVAはスタジオの大半を「女性専用」とすることで、「おじさんと一緒にやりたくない」という女性から支持を集めた。 米国で広まったホットヨガのアイデアを真似しつつ、日本に適した形で展開することで優位に立った。

2010年代になって、米国で暗闇で自転車をこぐフィットネスが流行ると、LAVAは日本にいち早く模倣した。 「フィールサイクル」という名前で浸透させた。

要するに、外国のビジネスを取り入れるのが得意な会社である。

とはいえ、ヨガにしろ、自転車にしろ、施設もプログラムも安っぽい。

とくにフィールサイクルは、英語をしゃべれないインストラクターが、英語を連発して気持ち悪い、という口コミに説得力がある。 つまり「子供だまし」だということだ。あと、女性インストラクターの肌の露出が多いため、欲求不満系の中年おじさんは喜んでいるようだ。

ホットヨガの商売では、料金表で不当な表示を行ったとして、消費者団体から告発された。 出典→

同じホットヨガなら「カルド」のほうが施設もサービス内容もはるかにマシだ。

(参考:ホットヨガの歴史


フィットネス業界とコロナ禍

マシンに特化した小型ジムが強い

2020年から2021年にわたり、フィットネスクラブは、コロナの影響で会員数が急減しました。 緊急事態宣言で休業や時短営業を余儀なくされた店舗も多かったです。 ライザップ、コナミ、セントラル、ルネサンスなどの大手は赤字に転落しました。 一方で、トレーニングマシンに特化した小型ジムは比較的、打撃が少なかったです。 小型ジムは、無人店舗なのでコストが安いです。お風呂がないことも、施設の維持費用の面で大きな利点になります。 月会費が安いため、若者の会員が多く、コロナへの恐怖感をあまり感じない会員が多かったようです。

高齢者はスタジオレッスンが好き

高齢者はスタジオレッスンが好きです。 一人でコツコツとマシンで鍛えるというお年寄りは少ないです。 みんなでガヤガヤとグループで運動するのが好きです。 コロナが鎮まってくれば、まだ大型施設に成長の余地はあるでしょう。



業界レポート「小型ジムの急成長」

2010年代、スポーツジム(フィットネス)業界は「小型ジム」が急成長した。従来はスポーツクラブといえば1000坪が標準的だった。しかし、40~70坪程度の小規模施設が一気に増加。主にフランチャイズ方式で全国に店を増やした。

エニタイムフィットネス

最近、仕事帰りの男性が平日夜によく通うのが、駅前にある小型ジム。その一つが、マシンジムに特化した米国生まれのフィットネスクラブ、エニタイムフィットネスだ。

エニタイムフィットネスの店内にはランニングや筋力アップなどのトレーニングマシンがずらりと並ぶ。皆、黙々と汗を流している。その光景は深夜まで続く。

エニタイムは24時間・年中無休。いつでも好きなときに行けるとあって、20~40代の忙しいビジネスマンの間で人気となり、都心で店舗を急拡大させた。

カーブス

一方、主婦に人気があるのが、別の小型ジム「カーブス」。午前中から多くの中高年女性でにぎわう。女性専用である。30分間、休まずにさまざまなトレーニングを行う「サーキットトレーニング」を売り物としている。

アメリカ生まれの「サーキットトレーニング」

円状に並べられた10台くらいのマシンを使い、音楽に合わせながら体を動かしていく。2周して、最後にストレッチをすれば完了だ。

アメリカが母体のカーブスは2005年に日本に参入。店舗数は全国で1500を超えた。運営会社FAST FITNESS JAPAN。東海や九州にも進出し、集中出店を進めている。

カーブスはショッピングモールへ

カーブスの場合、週2~3回、500人の主婦の集客が見込める。このため、ショッピングモールや商店街などから引き合いが多い。



市場規模4200億円

スポーツジム(フィットネスクラブ)の市場は2010年代に10%程度拡大し、4500億円規模になっている。一方で、店舗数は4000店に倍増した。この原因となったのが、小型クラブの増加である。

プール、マシン、スタジオの3点セット

業界最大手のコナミスポーツを筆頭に、セントラルスポーツ、ルネサンスら老舗が手掛けるジムは、プール、マシン、エアロビクスなどを行うスタジオの2点セットをそろえていた。いわば“百貨店”。露天風呂やジャグジーをウリにする店もある。

ところが、そうした総合型に入会しても、「月1万円以上する会費に見合うほど設備を使い切れない」ことを理由に退会する人も少なくなかった。

3点セットうち、コストがかかるのがプール。まずこれが削減の対象になった。ウエートトレーニングに定評がある米国発のゴールドジムは「プールなし」とすることで店舗運営のコストを抑え、都心部を中心に堅調に業績を伸ばした。

小型ジムは会費7000円

新興勢による小型クラブはマシンジムや特定の運動に特化している。いわば専門店である。月会費は総合型の6割程度(6000~7000円前後)なので「ジョギングはしたいけどプールは要らない」「決まった運動を続けたい」など目的がはっきりしている人にとっては、コストパフォーマンス(コスパ)が良い。

クラブ側にもメリットがある。初期投資や月々の運営費がいずれもローコストで済むのだ。

総合型は一般的に、1000坪の施設におよそ10億円を投じて10年で回収するビジネスモデル。スタッフも手厚く配置する。

人件費率20%

これに対して、小型クラブの場合は、既存のオフィスビルや商業施設にテナントとして容易に入居することができる。初期投資は総合型の10分の1にも満たない。人件費率も20%くらいと低い。

深夜は無人の24時間ジム

24時間ジムは受付もなく、入退店はICキーで行い、深夜帯は無人。代わりにくまなく防犯カメラが設置されている。

女性専用だから「男性の目を気にしなくていい」

小型クラブの登場により、これまでジムに行かなかった人も通うようになった。中でも女性専用のジムは、女性客の開拓に貢献した。

カーブスの場合、会員も女性だが、スタッフも女性だけである。このため、男性の目は気にしなくていい。

「鏡なし」が人気

鏡がないから運動に苦手意識を持つ人も、恥ずかしくない。この鏡がないというのは、意外と大きな魅力だったようだ。本来は鏡を見ながら姿勢やフォームを改善するのが、運動するうえでとても大切である。しかし、自分の姿を見たくなかったり、鏡越しに自分の姿を見られたくない人も、実は大勢いたのである。

暗闇が大ヒット

同じような発想で、「暗闇フィットネス」も流行した。暗闇だと、汗だくで激しく動いている姿を人に見られる心配がない。これが女性の心をつかんだ。

ホットヨガスタジオも女性専用

2010年代に急増したホットヨガスタジオも、大半は女性専用になっている。

スタジオに男性がいると、どうしてもお尻を後ろに突き出したり、大きく開脚したりするポーズをするのを躊躇(ちゅうちょ)したくなる。女性だけなら、どんなポーズも遠慮なくできる。



ジム会員は国民の3%

日本人のうちジムに通う人の比率(のフィットネスクラブ人口)は3%程度で長年、伸びていない。大手は限られたパイを奪い合い、価格競争に陥っている。会員の高齢化も進んでいる。

アメリカは20%

一方、アメリカは比率は20%と高い。肥満率が高いこともあって、クラブ人口はもともと高い。政府が定める健康保険がなく、病気になったら治療費に膨大な費用がかかる場合が多いため、予防のためにジムに通うという人も多い。

こうした事情に加えて、小型ジム・専門ジムが登場したことで、さらにジム人口が増えた。

ライザップの台頭

日本のジム業界においって、著しい成長を遂げたのが、ライザップである。短期間でのダイエット成功と肉体改造を提唱。極端な食事制限をさせることで、短期間で痩せることを「保証」するという新しいビジネスを展開させた。

コナミの会員プラン変更

最大手のコナミは大幅な料金改定を行った。2013年夏、利用頻度と施設カテゴリー別に16通りから選べる新プランを導入。顧客満足度を高めて退会を減らし、新規会員も獲得するのを狙った。

シニアは値上げ

しかし、この料金改定はあまり成功しなかった。シニアを中心とした一部のヘビーユーザーにとっては実質的な値上げとなった。そのため2014年春からは60歳以上専用料金プランも投入。また、初心者向け少人数制スクール「OyZ(オイズ)」の拡大も図った。

ルネサンスはデイサービス「元気ジム」

業界3位のルネサンスは、シニア層への対策をより強固に打ち出した。独自の運動プログラムを目玉にしたリハビリ特化型デイサービス「元気ジム」を全国で展開。介護ビジネスを拡大させた。

ベトナム進出

また、海外へも活路を求め、2014年秋にはベトナム・ホーチミンに最新設備を有したフィットネスクラブをオープン。欧米企業も手付かずの地で、市場開拓に取り組んだ。

ティップネスは「ファストジム24」

ティップネス、メガロス、ルネサンス、セントラルなどの既存ジムは、従来の総合型のクラブとは別に、小型ジムの運営を始めた。

ティップネスは24時間の小型ジム「ファストジム24」を首都圏に続々と出店した。

大型ジムの場所確保が困難に

建設費の高騰や立地不足により、大型のジムを新規で出店するのは一段と難しくなっている。そうした事情が、小型クラブの出店ラッシュや多角化に拍車を掛けた。



業界再編

スポーツジム(フィットネスクラブ)の多くは大企業の子会社になっている。1980年代、1990年代に多くの大企業が事業の多角化や不動産の有効活用を目指して、参入してきた。

バブル崩壊後、そうした案件が売りに出され、合従連衡が繰り返された。その結果、コナミ、セントラル、ルネサンスなど大手による寡占化が進んだ。こうした動きは2010年代も続いた。

セントラルがザバス買収

例えば、2013年に「ザバス」を運営する明治ホールディングス(HD)がセントラルに、2014年にサッポロHDがダンロップスポーツに、それぞれフィットネス事業を売却。

日テレがティップ買収、ドゥがNスポ買収

2014年末には、サントリーHDが社内ベンチャーとして創業したティップネスを、日本テレビHDに売却した。理由は本業に集中するためだ。また、ダンロップがキッズを買収した。

2019年には、砂糖メーカーが運営する老舗ジムのドゥスポーツが、中村屋の「NAスポーツクラブ」を買収した。フィットネス事業を売却したい企業はまだ他にも多数あるとみられ、案件争奪戦も進む可能性が高い。

<ジム各社の再編と新規事業の動き>
ジム 概要
コナミ
(旧ピープル、エグザス)
  • ・料金プランを利用頻度別に大幅改定
  • ・シニア向け運動教室を120店以上展開予定
  • ・2001年マイカルからコナミ傘下に。
  • ・ダイエー、住友金属工業、NTT西日本、日本生命保険、阪急電鉄などのクラブを次々と譲り受け、業界最大手に
セントラル
  • ・2013年、明治スポーツクラブを子会社化。2015年度は売上高500億円超の見込み
  • ・小型ジムに参入、東京・神田に「ジムセントラル24」を出店
ルネサンス
  • ・リハビリ特化型デイサービス「元気ジム」を積極的に出店拡大
  • ・ベトナム・ホーチミン近郊のイオンモール内に出店
  • ・キッコーマン、帝人、住友商事、三菱地所などのクラブを譲り受ける。
  • ・2014年には親会社DICの資本が17%に低下した。
ティップネス
  • ・2014年、サントリーから日本テレビ傘下に
  • ・小型ジムに本格参入。「ファストジム24」の100店展開を計画
  • ・買収劇は今後も続く! 近年の主なM&A
NAS
  • ・ベンチャーキャピタルを経て2005年、大和ハウス工業傘下に
ダンロップ
  • ・2014年、サッポロスポーツプラザ、キッツなど2社を買収